2009年11月04日

なぜ左室拡張末期圧が重要なのか?

 左心室の役割は,全身の循環を維持し得る血液を駆出することである.

これには「肺うっ血を来すことなく」という条件がつく.

左室が全く収縮しないという極端な状況を考えてみる.

この場合でも,左室内に血液を無理矢理押し込んで左室を押し広げると,左室心筋の弾性によって血液は前方に駆出される.

しかしながら,左室に無理矢理血液を押し込むような圧力が左房,肺静脈にかかれば,肺うっ血をきたして肺での酸素取り込みができない.

さて,このような肺うっ血を来すかどうかのカギは,拡張が終わって収縮が始まる直前の左室内圧−すなわち左室拡張末期圧−が上昇しているか否かにある.

心房収縮期には左房が収縮して僧帽弁が開き,左房から左室に血液が流入するが,左室拡張末期圧が高いとその流入の抵抗となるため上流側である左房圧が著明に上昇することになる.

そうすると次の左室収縮期に肺静脈から左房への血液流入が障害され肺静脈圧が上昇する.

さらに悪いことに,左房収縮により前方に駆出されない血液が肺静脈に逆流するため,肺静脈圧をさらに上昇させることになり,これらが誘因となって肺うっ血を招来する.

左房から肺静脈へ血液が逆流するのは,左房と肺静脈の間には弁がないためである.

このように考えると,肺うっ血を来すかどうかは,左室拡張末期圧が重要であることがお分かりいただけたと思う.


 拡張型心筋症や陳旧性心筋梗塞症のように左室が拡大し,収縮能が低下している場合,心拍出量の低下は交感神経系やRAS系を賦活化し,体液を貯留する方向に働く.

これは正常な代償機構である.

このため,心臓への血液環流量が増大し,これは左房圧の上昇ひいては左室拡張末期圧の上昇を招く.

この左室拡張末期圧の上昇が,左室心筋を引っ張ることで,心筋の収縮をよくする方向に働き,低下した収縮能を代償しようとする.

正常な心筋は,引っ張れば引っ張るほど,収縮性が向上するという性質があるためだ.これをフランクースターリング機序という.

しかし,これにも限界があり,心筋のダメージが大きくなると引っ張っても収縮がよくならず,むしろ収縮性を低下させ,心拍出量が低下してさせてしまう.


 肥大型心筋症や高血圧心疾患のように左室駆出率は保たれているものの,左室心筋が肥大して,いわゆる“拡張不全”と言われる状態の場合はどうだろうか?

左室心筋が肥大して固くなった状態を,左室コンプライアンスの低下という.

たとえば,風船とサッカーボールを比べてみると,風船の場合は空気をどんどん入れていっても容積が増大するため内圧はあまり上昇しない.

一方,サッカーボールは空気を入れると容積が余り増えないため内圧がどんどん上昇する.

サッカーボールは風船と比べて,コンプライアンスが低いといえる.肥大した左室はサッカーボールで,血液が流入すると左室内圧がどんどん上昇してしまう.

血液流入が終わった左室拡張末期には最も圧が上昇することになり,左室拡張末期圧の上昇となる.


 このように,心不全の診断,すなわち肺うっ血を来しうる血行動態かどうかを判定する場合,拡大収縮不全心と肥大拡張不全心のいずれの場合においても,左室拡張末期圧の上昇の有無を判定すればいいということになる.
posted by echoboy at 17:14 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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